グーグルで有能な人材が続々と流出: その背景にあるのは何か?

米グーグルで今年、有能な人材の流出が相次いでいる。まず5月には、同社の基礎研究所Google Xで最先端のAI(人工知能)技術「ディープラーニング」を開発してきたスタンフォード大学准教授のアンドリュー・エン(Andrew Ng)氏がグーグルと袂を分かった。「中国のグーグル」とも呼ばれる「百度(Baidu)」がシリコンバレーに新設した、AI研究所の初代所長に就任するためだ。

続いて7月には、同じくGoogle Xで「Google Glass」等を開発してきたババク・パービズ(Babak Parviz)氏がアマゾンに移籍した。さらに9月に入ると、Google Xの副社長ミーガン・スミス(Megan Smith)氏がグーグルを退社して、オバマ政権の最高技術責任者に就任した。

同じく9月、Google Xで自動運転車の開発プロジェクトを指揮してきたセバスチャン・スラン(Sebastian Thrun)氏もグーグルを離れ、自ら創立したMOOC(オンライン大学)「Udacity」の経営に専念することになった。

そして10月、グーグルで次世代ロボットの開発プロジェクトを指揮してきたアンディ・ルービン(Andy Rubin)氏が退社。今後は、ロボットなど先進ハードウェアを開発する新興企業のインキュベーターを設立する見通しだ。

■多くがGoogle Xの関係者
こう見てくると、ルービン氏を除けば全てGoogle Xの関係者であることが分かる。これだけ有能な人材が立て続けに辞めてしまえば、グーグルの基礎研究にかなりの影響を与えることも考えられる。特に大きいのは、セバスチャン・スラン氏がGoogle Xを離れることだろう。

スラン氏はかつて米スタンフォード大学で自動運転車の開発プロジェクトを指揮し、2005年に米国防総省傘下の研究機関が主催する「DARPA Grand Challenge」という自動運転車レースで同大を優勝に導いた立役者。つまり現在の自動運転車ブームへとつながる、初期のイノベーションを巻き起こした天才的なAI・ロボット研究者だ。

グーグルにおける自動運転車の開発は既に軌道に乗っているから、スラン氏が同社を離れても当面支障はないかもしれない。しかし今後、試作段階から製品化へと至る詰めの段階では、新たな技術的課題が持ちあがってくる可能性も十分ある。そのときにスラン氏の類稀な才能が必要とされるのではないだろうか。やはりグーグルにとっては手痛い損失と言わざるを得ないだろう。

■背景には何があるのか?
同氏を筆頭に、半年間でここまで人材流出が相次ぐと、「何故なのか?」と勘ぐりたくもなる。確かに各々の退社理由を見るとそれなりに納得もいくが、これほど短期間に集中するのは少し変だ。背景には何があるのだろうか?

グーグルは今年10月の人事異動で、上級副社長のスンダル・ピチャイ(Sundar Pichai)氏が「検索」や「広告」など同社の主力ビジネスを事実上、取り仕切っていく立場になった。これに伴い最高経営責任者ラリー・ペイジ氏は、Google Xを中心に、より大きなビジョンを描く仕事に専念する見通しと一部メディアは報じている

因みにグーグルは、Google Xに続く基礎研究所として、次世代の都市計画などを研究するGoogle Yも立ち上げる計画だ。

Google Xのような基礎研究部門はこれまでセルゲイ・ブリン氏が監督してきたが、同氏に加えてペイジ氏の関与も強まれば、それまで自由にやってきた上記人材との間で軋轢が生じることもあり得る。もちろん単なる憶測に過ぎないが、人材流出の一因はその辺りにあるのかもしれない。

著者: 小林雅一
クラウドからAIへ アップル、グーグル、フェイスブックの次なる主戦場』
朝日新聞出版、税込み819円)
秘書のように問いかけに応えるスマホ、自動運転車、ビッグデータ---。時代を読み解くキーワードは「クラウド」から「AI=人工知能」へ。人間が機械に合わせる時代から、機械が人間に合わせる時代が到来しつつある。IT、家電、自動車など各業界のAI開発競争の裏側を描きつつ、その可能性と未来に迫る。

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